Cave de Oyaji

20075月の南仏紀行

W.ヴァケラス逍遥

ドメーヌ・ブリュッセ〜シャトー・デ・トゥール〜ドメーヌ・ル・サン・デ・カイユー〜ドメーヌ・ラ・モナルディエール

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ローレン・ブリュッセとグルナッシュ


グルナッシュの花(受粉期)

ドメーヌ・ブリュッセ Dom.Brusset

525日は朝からケランヌ村の中心にあるドメーヌ・ブリュッセを訪問した。ブリュッセではケランヌで35ha、隣接するジゴンダス村のモンミライユ山南麓の最も良い畑を19ha以上所有する地元ではたいへんな名家である。

醸造される銘柄はコート・デュ・ローヌの他、コート・デュ・ローヌ・ヴィラージュ・ケランヌ、コート・デュ・ヴァントゥー、ジゴンダスでは通常のキュベの他にオー・デ・モンミライユと言う名の特別な銘柄が著名。しかしその他にも様々な白やロゼ、ヴァン・ドゥー・ナチュレやマールまで瓶詰しているが、私自身最も興味があったのはケランヌ産の“オマージュ・ア・アンドレ”というスペシャル・キュベであった。80年ものの葡萄を使用したローヌ・マニア間では一種コレクターズ・アイテム化した銘柄である。

案内してくれた当主ローレン・ブリュッセ氏とは以前幕張のフーデックス(食品見本市)でお会いして多少面識があった。非常に親切で丁寧な受け答えをする好人物である。彼は「先に畑を見るかい?」と大型の4WDに我々を乗せて斜面の多い畑を案内してくれた。ブリュッセの広大な畑はケランヌの丘陵の頂上まで広がる。興味の中心だった“オマージュ・ア・アンドレ”に使用するグルナッシュの古樹の前で車を降りて説明を受ける。

この年は暑い日が続いて日照時間も長い為に例年より早く葡萄の花が開花し、受粉期が訪れているのだそうである。「この分だと収穫は8月になっちゃうよね」 どうも2003年この方この傾向が強いそうである。


ブリュッセの畑では表面を覆う石灰岩質の小石の量が非常に多いし、一つ一つの大きさが他の場所よりも大きい。この時期は葡萄の枝の剪定作業が忙しいらしく、実際にローレンはグルナッシュの間引きを行って見せてくれたりもした。

ブリュッセでは常に様々な畑での新しい試みに着手している。傾斜のきつい所ではコート・ロティやコルナスで見られる様なゴブレット仕立てのシラーなぞも栽培しているし、より良いワインを醸造する為にあらゆる手段を用いる。これだけ広大な所有地とワイナリーの規模があるからこそ、でもあるがローヌワインを知る上ではブリュッセの努力は大変重要な事実でもある。後は消費市場での彼のワインに対する正しい価値認識だけではないだろうか?しかし残念ながら少なくとも我が日本国内ではどうもそうは見られてはいないようである。


グルナッシュの古木


私がブリュッセのワインに最初に接した時、バラエティに富んだ銘柄のラインナップに驚いたものである。特にジゴンダスは(3つの銘柄がある)素晴らしく、最上のオー・デ・モンミライユばかりでなく、グラン・モンミライユと言う多少グルナッシュ配合が多い銘柄のコストパフォーマンスには驚いたものだ。恐らく他のメーカーの同クラスのワインに較べて2030%は格安で入手出来た。


ケランヌ産のコート・デュ・ローヌは周辺の、例えばラストーやボーム・ド・ブーニーズに較べて多少熟成が必要なグルナッシュなので市場の評価が微妙に異なるのである。そこらへんを正しく理解すればブリュッセの素晴らしいワイン達が如何に優れたパフォオーマンスを示すかは一目瞭然。

いくら“オマージュ・ア・アンドレ”が入手困難な希少品と言っても小売価格は7000円くらいであろうか。最上のジゴンダスであるオー・デ・モンミライユでも5000円内外が入手可能な価格なのである。


ブリュッセ・ファミリーと共に



シャトー・デ・トゥール貯蔵庫内部

シャトー・デ・トゥール Chateau des Tours

ブリュッセのローレンは午後からカンヌで開催されている映画祭にワインのプレゼンテーターとして出かけるそうである。こちらも早々に次の訪問先であるデ・トゥールに移動した。ヴァケラス村のガリーグ地区の森の中にエマニュエル・レイノー主催のシャトーがある。

前回のローヌ訪問の時に出会った醸造家と再開するのはエマニュエルが最初であった。もちろん3年前はシャトー・ラヤスでお会いしたのだが、全く変わっていない。シャトー・デ・トゥールはエマニュエルの実家なので、よりワインの案内も饒舌になって解説してくれた印象が残った。

彼の手がけるワインはヴァケラス産のAOCからヴァン・ド・ペイ(ボークリューズ表記となる)に至るまで決して手を抜く事のない酒質の上での品格をも感じさせる特異なものだ。醸造し瓶詰めしても尚、気を抜かずにエルヴァージュし、的確な熟成時期を見定めて市場に投入するスタイルを貫いている。


エマニュエル・レイノーと共に


現在は20023VTを試すべき、と様々な銘柄のデ・トゥールのワインをサンプリングする。ヴァン・ド・ペイの三つの銘柄、ACコート・デュ・ローヌ、そして怪物級の呼び声の高いヴァケラス表示であった。2002年ものと言うと作柄の悪さを想起するだろうが、エマニュエルはたいして意識もしていない、と言う表情でワインを勧める。「悪い年にはそれなりにワインを仕込むのさ」なんて平然と言うのはこの年のワインでさえレイノー・マジックを体感できる為だ。あえて申せば02は総じて色合いが薄いだけである。味そのものはいつものデ・トゥールでグルナッシュの肉付きの良い軽快な果実を充分満喫出来るのである。


その内にフードル(大樽)から20042005年の仕込みを次々と試して行く。どうもエマニュエルのワインには駄作と言うものが無い。1998年のキュベから此処のワインを扱うが全ての作柄年が偉大と思えてくるのが不思議だよね。


ドメーヌ・ル・サン・デ・カイユー Dom.le Sang des Cailloux

今日は4箇所も生産者を回る予定だが、朝にケランヌ村に行ってからはヴァケラス周辺の有名処ばかりなので移動は楽だ。昼食をエリック(ブルタン)の自宅でご馳走になってから直ぐ近くのサン・デ・カイユーを訪問した。

ヴァケラスのアペラシオンと言えば多少ローヌワインに造詣の深いファンであれば大概の場合このドメーヌを引き合いに出すだろう。立派な髭を貯えたサージ・フェリグルが当主のこの著名なドメーヌはエマニュエルのデ・トゥールと並んでアドヴォケイト誌上で何度もロバート・パーカーjrの礼賛を受けている造り手でもある。

我々が訪問して時は生憎サージが不在だったが、このドメーヌを切り盛りしているマリー・カルベさんの案内でテイスティングと醸造蔵内部を参観した。

 
サン・デ。・カイユー入口にて


サン・デ・カイユーが醸造する赤ワインの銘柄は全てヴァケラス表記の2種。通常キュベとヴィエイユ・ヴィーニュで、この樹齢の古いキュベ・ロピィはリリースされない年もある。

トラディッショナルな2003ヴァケラスを試すとグルナッシュがともすれば出てきてしまう野暮ったい味わい、田舎臭さや訳のわからない果実の塊り、と言った垢抜けない要素は全く感じない。液面のスムーズさとボディのまろやかさは高級感溢れるスタイルである。ヴァケラスが南ローヌ地方でいち早く独立したアペラシオンを名乗る事が出来たのはこんな類稀なワインが存在したからである。

そうこう皆で話し合っているとサージの大将がご帰還し、直ちに話の輪に入る。とても人懐こくって冗談ばかり言っている酒屋の親父そのままで、本当に楽しい。やっぱりこの銘柄も要チェックだねぇ。

 


 
クリスティアン・バッシェと

ドメーヌ・ラ・モナルディエール Dom.la Monardiere

今回の南仏ローヌ渓谷紀行の最後の訪問蔵はクリスティアン・ヴァッシュが主宰するラ・モナルディエールである。毎日の様にお世話になったエリック・ブルタンの住まいからほんの数百メートル離れた所に在る。

クリスティアンとその奥方とは前日にエリック宅で一緒に夕飯を楽しんでいるので訪問しても仲の良い有人達の集まりの様である。「明日パリに行くのか。東京までのフライトは長い時間なんだろう?」なんて心配さえしてくれる。クリスティアンの家族を丁寧に紹介していただいたりして、おもむろに蔵の中を案内してもらった。

シャトーの左側の入口を入るとテイスティング・ルームがあり、そこで一通りのキュベを試すのだが、モナルディエールの醸造蔵内部は非常に整理整頓され清潔なのが先ず印象に残る。此処で生産されるワインはヴァケラス表記のワインが3銘柄。レギュラーの“2Monarde”及びヴィエイユ・ヴィーニュの赤とほんの少しだけ造る白。その他のコート・デュ・ローヌやヴァン・ド・ペイ・ド・ヴォークリューズが数種ある。


モナルディエール


クリスティアンのワインにはそのどれを試しても共通の味わいを感じる事が出来る。それは口に含んだ時にふっくらとした柔らかさ、果実のあじわいだけでは無いワインの持つ優しさである。濃厚であるが故のむせ返る様な芳香や果実味の炸裂する性格のワインではない。適度な酸味や鼻腔を擽るエキゾチックなアロマ、嫌味のないむしろ控えめなワインの主張は飲む者に安らぎを与えてくれる性格と言ってよい。

ヴィエイユ・ヴィーニュ(古い樹齢の葡萄)でさえも果実だけでない様々なワインの要素が程よくバランスされているのだ。驚いた事にテーブル・ワインとして安価なヴァン・ド・ペイでさえもそれを感じて取れる。彼は恐らく醸造に関しては恐ろしく繊細な作業を敢行しているはずである。


モナルディエール所有畑(グルナッシュ)


実はモナルディエールのワインは2003年のV.Vを初めて我が家で扱った。その時試飲をして、果実味が濃厚な割には液面が滑らかで透き通るワインに少し首をひねった。これは他のヴァケラスとは異なる。ちょっとバランスで上手く行かないのでは?と。正直にクリスティアンにこの質問をぶつけてみた。

2003年はとても難しい年だった。夏の日照が続いてとても暑く、水も枯渇した。こんな時はアンバランスな葡萄が出来てしまう。出来は良くなかったね。」
ああ、やっぱりね。この時試した200405年ものが本来の彼のワインなのだ。

しかし、これだけの高品質のワインは早晩ワインジャーナリストの耳目を集める事であろう。(と思っていたら既にフランス国内ではすっかり著名人だそうだ)


ヴァケラス・ヴィエイユ・ヴィーニュ

ルーカス・トンバのエリックは「ワインに於ける我が師」として親しくするクリスティアンはヴァケラスのみならずローヌ渓谷ではすっかりヴィニロンとしての地位を確保したのであろう。

この時期葡萄の花が開花する時節、醸造家は毎日畑作業が続く。デ・トゥールでもモナルディエールでも原則として手作業である。昨今BIOを標榜してその農法とサン・スーフルと呼ぶ醸造法でのSO2無添加、無濾過、無清澄の手法ばかり話題になるが、私が訪れた醸造家たちはそれらを当たり前の事とし、自らの農作業の一環として取り入れてはいるが、殊更にそれを主張はしない。何故なら全てはより良いワイン、理想としてのワインを皆めざしているのであるから。飲む者に喜びを与えるのは手法そのものではなく、ワインの持つ自然な味わいにこそ彼らの類稀な個性が込められているのだ。

すっかり打ち解けて話に興じてしまい時間の経つのも忘れてしまった。時刻は既に午後8時を過ぎている。でも外は太陽さえ顔を出している!別れを惜しんで退出した。


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2007年旅行記エピローグ篇

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