Cave de Oyaji

20075月の南仏紀行

V.ドメーヌ・タンピエ

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早朝のヴァケラス村からモンミライユ山の俯瞰




タンピエのレセプションハウス入口

いくら5月のフランスがサマータイムと言ってもホテルの部屋に帰るとぐっすりと寝てしまう。お陰で朝は5時には目が覚めるのでいつもホテルの周辺を散策していた。

ホテルはジゴンダスに在るのだが、少し葡萄畑の中の路を10分ほど歩いて緩やかな峠を越えるとヴァケラス村である。村境を越えてさらに20分くらい歩くと村の中心に至る。この時間はさすがに爽やかな温度で乾いているから汗もかかず歩くにも苦にはならない。でも6時前というのに農作業に出てくる農夫もいる。涼しい時間を有効に使うのであろうか。なにしろこの時期葡萄農家にとっては農繁期に違いは無い。

ホテルの前で高瀬さんの運転する車に乗り込むと、今日はタンピエに行くの、とエリックに伝えると本当に羨ましそうな顔をしていた、と笑っていた。そう、今日は念願だったドメーヌ・タンピエを訪問する予定である。

タンピエのワインに関しては個人的にも相当な思い入れもあるのだ。プロヴァンス地区で屈指のワイン産地であるバンドール村に於いて他の追従を許さない酒質と伝統、そしてフランスワイン界で立志伝中の人物であるレイシュアン・ペイローが打ち立てたタンピエの真実を知らずに南仏フリークを自称してはならない、との思いさえある。

そんなワインの薀蓄を知る以前からさえタンピエのロゼには舌を巻くほどの感動と喜びを与えてくれた経験も持っている。夏の暑い昼下がりに爽やかな魚のカルパッチオやムール貝と共に飲むタンピエのロゼは(スノッブの極みと言われようとも)何者にも変え難い。冷やしても葡萄の果実を実感しつつドライな味わいを提供するワインなぞ他ではなかなかお目にかかれはしない。淡白なワインを蔑視するかの様なロバート・パーカーでさえタンピエのロゼには一目置いているのを見ればよく理解できよう。今回やっとこの稀有な存在とさえ言えるワイナリーを訪れる事が出来る!実を言うと今朝は少し興奮して早く目が覚めてしまったのである。

アヴィニョンから高速道路に乗って南下し2時間ほどでバンドール村に着く。プロヴァンスの景観はローヌ周辺とは異なり、石灰岩質の断崖や潅木に覆われた小高い山々が連なる独特の景色が特徴だろう。車中で決して日本ではお目にかかれない景観を楽しみながらタンピエを目指す。

シャトーの入口に到着したのは少々予定より早い時間であった。ちょっと気負い過ぎか?


ドメーヌ・タンピエ

あらかじめ訪問する予定を訪れるシャトーにそのご都合を伺うのはマナーの範疇である。それでも対応の仕方は実に様々、どうもワインが順調に売れている所ほど淡白な対応をされる印象はぬぐえない。でも確実にこのタンピエは違うね。ひっきりなしに観光客が土産を買いに訪れて様々な質問を繰り返す中、酒屋として本当に丁寧に対応していただいた。

ドメーヌ・タンピエの歴史は1834年まで遡る。以来1880年にマダム・ペイローがこのシャトーを手に入れ、第二次世界大戦終結直後にリシュアン・ペイローがバンドールのワインを組織的にその酒質を向上させてAOCの認可を得た事が彼の最も偉大な業績であった。以来タンピエはバンドールワインの象徴とも言える存在である。

現在跡を引き継ぐペイロー家の子孫達はワイン造りの一線から引退して新たに醸造責任者としてダニエル・ラヴィエ氏を迎え入れ、ワイン造りを一任している。今回直接彼の案内でタンピエのワインを解説して頂いた。


ドメーヌ・タンピエの地下貯蔵庫

タンピエが手がけるワインの銘柄は全てAOCバンドールで赤は村名表示の他、特醸ワインとしてトゥルティーヌ、ラ・ミグワ、最上キュベのカバッソウがある。極めつけのロゼは一種類のみ、その他マニアにしか知られていない生産量が非常に少ない白もある。その全ての銘柄を年代毎に地下のシェ(貯蔵庫)で試させてもらった。未だ日本に入っていない2006VTのロゼや2000の白から!である。

どうやらこ奴はタンピエ信者の一員、とダニエルに見抜かれていたであろう。十数本試した後に89のトゥルティーヌさえ抜栓してくれるではないか!!これこそ本当の役得に違いない。

でもちゃんと冷静にボトル毎に試しもしたのだ。ムルヴェドル種主体のワインは飲み頃を推し量るのが本当に難しいのである。


ダニエル・ラヴィエ氏



ドメーヌ・タンピエ周辺の景観

予定の2時間なんてとっくに過ぎるまで三人でワインの話にふけった。驚いたのはダニエル君が赴任する以前のタンピエのワインをまるでわが子の如く丁寧に解説する事である。カバッソウやミグアなぞは多少年代が古くとも必ずデキャンタリングせえよ、と教えてくれたのには密かに舌を巻いたほどである。

「今は葡萄の開花の時期だから『ワインが騒ぐ』ので本当はテイスティングに向かないんだよね。」とか(これは南仏の作家は皆言っていた)

「うちのワインは冬の時期は飲まないほうが良い。」とかなかなか意味深長なコメントが聞けたのが収穫である。

話題のロゼはマセラシオンの作業で本当に気を使うそうだ。可憐な色合いと独特な深みのある味わいは細心の注意を払って醸造されるのである。


ダニエルと共に


タンピエのロゼやカバッソウは文字通り此処の看板ワインであるが、ちょっと触れた白を是非試してみることをお勧めする。生産量が極めて少ないからなかなかお目にかかれない代物だが一飲に値する銘柄である。

ドメーヌ・タンピエはダニエル君が中心となって今大規模なシャトーの設備の改築中である。近年の2000年作柄前後、タンピエのワインが不調だった事を知る識者は意外と少なく、一方ならず心配さえしていたが、05のロゼなど劇的にその酒質が向上し、数少ない南仏フリーク達は皆驚喜したものである。その前後の事情なぞも今回充分に理解できる訪問であった。心の底から安堵し、ダニエル君の仕事振りに尊敬を払うのはもちろん今後の醸造作業にも多いに期待が持てそうである。


どうも本当に長時間に渉ってタンピエで話し込んで意気投合したのが影響したか、帰り際にもダニエル君は我々に気を使ってくれる。

サンプルと称して半ダースものボトルを持たせてくれた上、帰り路のレストランさえ紹介して途中まで案内してくれた。ボーセット(Beausset)村にあるラ・グランジと言う所で、早速腹ペコのお腹を満たすべく入って席に着く。静かな雰囲気の外観と異なり中は結構お客で詰まっていた。私は3年前に南仏に来て以来プロヴァンスのレストランでは先ず魚を注文する。そのどれもがハズレが無い為で、今回も店主オススメのイトヨリ鯛のノワゼットソース風味仕立てをいただいたが、これが美味しかった!なんでこんなに魚を調理するのがうまいのかねぇ。帰国の際にこのノワゼットソースを幾瓶か購入したほどである。

今日はタンピエの訪問のみでお仕事は終了。ヴァケラスに戻って今宵はエリックの家で夕食をご馳走になる。


レストラン ラ・グランジ


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