Cave de Oyaji

20075月の南仏紀行

T. 初日はシャトーヌフ・デュ・パプ

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2007年フランス紀行文そのW

AF275便 ボーイング777


パリ、ガール・ド・リヨンで

前回、南フランスのワイン生産者達の所に訪れたのは3年前、20043月だった。来年も是非来てみたい、と思いつ続けて3年経ってしまった。これは単に私の怠け癖だけでもなく、実に雑多な身の回りの出来事にも由来する。

そうは言ってもワインを扱う商いからして是非にも訪れなくてはならない事情もあるから、エイヤッ!とばかり出かけてみた。まさしく万障繰り合わせて、である。

初めての南仏訪問の前回と異なり、今度は自分なりにテーマを携えての旅行にしたいのだが、はっきりと言葉や文言にできるほどの明確な意見ではないのだ。

・生産者 > 販売者 > エンドユーザー の誰もがその立場で喜べる商品(ワイン) とは一体どんな銘柄なのか。
・フランスワインの昨今は生産現場と販売現場とではかなり意見や言葉の使い方が乖離するようにも思われる。例えば「自然派」なるカテゴリーのワインやサン・スーフル(無添加ワイン)に就いて、はそれぞれの立場での評価が大いに異なるようだ。
・日本で試して自分なりに評価する生産者には是非ともお会いしたい、と思った。評論家諸氏とは若干異なる意見を持ち合わせているからこれは自分の趣向性の確認作業として大事な事である。

やれやれ、全然まとまらないぢゃないか。まぁ、出かけた先で考えればいいや。と無理やり飛行機に乗った。


522日にパリを離れTGVでアヴィニョンへ向かう。ジャケットを着ていったが到着すると気温は33℃とだいぶ暑い。この時期はいつもこんな温度の毎日なのだろうか。

駅を降りると前回もローヌ渓谷を案内してくれた高瀬さんが待っていてくれた。早速今日訪問予定のワイナリー(ドメーヌ)に向かう。今日だけで(午後からだぜ)3箇所!本当に仕事を片付けにやってきたのだ。南仏の容赦ない太陽にさらされながら車の助手席に陣取ったのだが、「こんなに暑いの?」と思わず聞いてしまった。彼女は「昨日までは涼しかったのにねぇ」とおっしゃる。う〜ん、こりゃついてないなぁ。半袖のシャツは何枚持ってきたっけ。
(*注 南仏は6月も熱波だそうで地中海沿岸の各国は日干し状態が続いているそうである。実際にTVの国際映像でも見た。)


アヴィニョン中央駅

ドメーヌ ボワ・ド・ブルサン

最初に訪問したのはシャトーヌフ・デュ・パプの丘の麓に在るボワ・ド・ブルサンであった。迎えてくれたのは当主ジャン・ポール=ヴェルシノ氏。此処には是非とも訪れてみたかったのである。それは一昨年から2003年ヴィンテージのシャトーヌフ・デュ・パプ銘柄を一通り試して、最もコスト・パフォーマンスに優れたワインの一本であったからで、同じ03VTの同一価格帯のパプとは比較にならない位ほどの味と将来性を兼ね備えた素晴らしいワインと断定した為である。
その味の秘密は一体何か?を知ることは充分此処を訪れてみる価値ある理由と思っていた。

わざわざ判り辛い道、と出迎えてくれた彼は如何にもプロヴァンス人の陽気さと親切さを感じることの出来る若いヴィニロンの風貌であった。

  
ジャン・ポール=ヴェルシノ           CNDP



ボワ・ド・ブルサン貯蔵庫内部

本当に気さくなジャン・ポールは初対面の私にも気軽に話をすすめる。彼に「3年前はシャトー・ラヤスやボーカステルへ一目散に出かけたが、今回は貴方の所へまず先にやって来た。」と伝えると非常に喜んでくれた。実際に本音であって、お世辞でもなんでもない。

こぢんまりとした彼の貯蔵庫に入って樽に入っている2006年もののシャトーヌフを赤、白、2005年ものはテイスティング用のボトルから試してみる。ボワ・ド・ブルサンで造られるワインはシャトーヌフ・デュ・パプのみで樹齢の高い葡萄からはフェリックス(Cuvee des Felix)が特別に造られるがこれは作柄の良かった年のみである。予想通り2005年作柄は素晴らしい出来栄えで、ジャン・ポールも「05のワインの出来はグルナッシュ作柄の最良年と言われる1998年に似ている。」と語った。

白はほんの少しの本数しか出来ないがこれも水準以上のものでグルナッシュ・ブラン、ルーサンヌ、プール・ブランを配合している。


ボワ・ド・ブルサンの畑の一部


あんなに難しかった2003VTをよく纏め上げたものですね、と話を向けると「別に意識はしなかったが確かに日照りで葡萄栽培は難しかった。果実は凝縮しきって小さくなったり。そんな場合先代からの教えが最も役に立つ。こんな時はこうしろと経験から培われた栽培法が最も有効だった。先祖の代から減農薬(リョット・リゾネ)法だったから、苦労は山ほどするけどね。」


「目標は昔ながらのシャトーヌフの造り方を守る事。たまに仲間の生産者達と古いシャトーヌフを試すのだけど、飲むといつも感心させられるんだよ。20年以上経っても飲めるワインは凄いって。だから僕もそんなワインを後世に残したいんだ。」

シャトーヌフ・デュ・パプの4箇所に点在する畑にもわざわざ案内してくれた。きちんと畝が掘られている綺麗に手入れされた畑ばかりであった。この畑の景観は後で判った事であるが非常に重要な要素にもなっているのである。


クロ・デュ・カイユー(ヴァシェロン・カイユー)

ボワ・ド・ブルサンで「次は何処へ行くの?」と言われ、クロ・デュ・カイユーだよ、と伝えると案内しようとジャン・ポールが申し出てくれた。ここらへんがおおらかで親切な南仏人そのものを見るようで楽しい。

少し離れた所に著名なクロ・デュ・カイユーのレセプション・ハウスがあった。立派な部屋で観光客用に様々なボトルが販売されている。ここにはクロ・デュ・カイユーで生産される殆どのワインが試飲出来る。

この生産者はコート・デュ・ローヌのAOCで多くの銘柄を輩出する。CdR(コート・デュ・ローヌ)ブーケ・デ・ガリーグ、同ヴィラージュ、新しく昨年からリリースするCdRクワルツ、それにシャトーヌフ・デュ・パプの3銘柄レギュラー、クワルツ、グラン・レゼルヴ。2005VTのシャトーヌフの赤は樽から試飲したが他は全てこのレセプション・ルームで試した。これに同じ名前の白と数種のロゼを飲んだから、総数は12種も試した事になる。


クロ・デュ・カイユー ゲストハウス


試飲しながらスタッフの話を聞いていたのだが、その時少々旅の疲れが出たのか案内してくれた方の名前がどうも思い出せない。たぶんうっかり聞き忘れたのだろう。シェ(貯蔵庫)は断然モダンな造りで、う〜む、儲かってるのかな?と思わせるがこれは余計な詮索だ。

近代的な造作でもワインの醸造法は極めて伝統的で綺麗なフードルが印象的であった。此処の所有する畑はCdR44haCNDP9haで、その80%がグルナッシュを作付けする典型的なグルナッシュ派の作家のひとつで、新樽は最上キュベのCNDPクワルツとグラン・レゼルヴしか使用しない。グラン・レゼルヴにはムルヴェドル種が40%以上アッサンブラージュされる例外的な銘柄でもある。

   
 フードル         グラン・レゼルヴの新樽


 
ルーカス・トンバ

クロ・デュ・カイユー所有のシャトーヌフ・デュ・パプの畑は実はラヤスの隣でもある。この地帯一帯のグルナッシュは特有のアロマを持つがそれはどうやら土壌に秘密の一端があるようだ。あの特有な大きな白い石ころが畑の表面を覆ってはいないのだ。茶褐色の粘土質の畑でこれはラヤスの畑でも同様であった。

ルーカス・トンバ
クロ・デュ・カイユーを出たのは午後6時過ぎだが初夏の太陽は一向に傾く気配さえなく、ぢりぢりと暑い。ここからヴァケラス村に向かい、ルーカス・トンバを目指した。車で20分と意外に近い。

ルーカス・トンバはこの数年間で頭角を現したメーカーで、話題の発生源はパリのショップであった。私の店でも2003VTから販売しているが、リリースするキュベは一種類のみヴァン・ド・ターブル“ルーカス・トンバ”(VdTRoucas Tomba”)。

製作者はエリック・ブルタンと言う背が高い新進気鋭の作家で実はちょっと以前から私と面識があった。


ルーカス・トンバの畑


ヴァケラスの地で生産者が理想を描いてワインの生産に挑戦している、と言う触れ込みがルーカス・トンバと呼ばれるワインの紹介であったことは鮮烈に覚えている。2003年ものを日本で試すと果たして今まで味わったことの無い深みと荒削りだが強烈な個性を感じた。ウエッブ上で紹介すると次々と顧客が問い合わせてくる。どうやらこの銘柄のステイタスは既にフランス本国で確立しているものと感じた。顧客の殆どがフランスで試して衝撃を受けた方々ばかりだった。

意外な事にルーカス・トンバの当主エリック・ブルタンは今回も南仏行を共にしてくれる高瀬さんのよき夫である事を告げられてさらに驚いた。昨年の年末には我が家に愛息と一緒にご夫婦が遊びに来たりしたものだ。もちろんその時からエリックとはワインを介して共通の会話の出来る善き友人となった。この日の最後に彼の仕事場を参観するのはごく自然な成り行きでもあった。


倉庫を改造した貯蔵庫


エリックのワインが市場に出るのはたかだか4000本余りでしかない。しかし、そこには彼の現在の技術や知識、毎日の農作業での最良の結果が込められている。

ワイン製作には先代からの教えにも忠実だが常に自分の手で全ての作業をこなす。彼は日々の畑の手入れが如何に大事かをいつも語っている。葡萄の剪定以前に畑の畝を定期的に掘り起こす作業、肥料には葡萄滓を用いるほど徹底した自然農法等々。

それは彼の畑を見れば直に判る事だが、全てが手造りで収穫した葡萄をまるで我が子の様に大事に扱い、瓶詰めまで神経をすり減らす作業を黙々と行う。この温かみ溢れる姿勢が彼のワインの最大の特徴である事は疑いもないだろう。

そんなエリックのワインは実家の倉庫を改造したシェで醸される。地域的にはヴァケラスだが03VTまでは試みにヴィオニエなぞも配合した為、ヴァン・ド・ターブル表記であった。が、2004年からは正式にACヴァケラスとなった。

エリックのワイン(ルーカス・トンバ)が熱狂的とも言えるファンの関心を集めるのは何故だろうか?何ともいえない不可思議な魅力を持つ飲み物である為か?今までに無かったコート・デュ・ローヌのスタイルを感じる性か?実はどちらも正解なのであろう。エリック自身にさえルーカス・トンバが将来どうなるかは判らないのではないだろうか。可能性を信じて最大限の努力を尽くす、その結実は100%コントロール出来るような優等生的なワインでは決してないはずである。何故ってワインは自然の恵み、時には神様は気まぐれを起こすかもしれないからね。

2004年のルーカス・トンバはやっと日本に出回るが、このキュベはフランス本国ではとっくに売り切れてしまった貴重品である事も伝えておく。


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